コメント(全4件)
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caminさま、
上演形態について色々と興味を引くことが書いてあり、大変勉強になりました。先日教えていただいたRunnallsの論文も含め、私にとっても改めてじっくり勉強しなくちゃいけないテーマが増えました。取りあえず今考えている疑問点として、13世紀とか、フランス語劇とか絞ると分かりませんが、中世西欧の演劇としては、並列に「マンション」を並べた舞台も、円形舞台もあったことは確かでしょう。
私はフランスの劇については乏しい知識ですが、有名なValenciennes Passion Playの図ような横にずらっとmansionを並べた絵画が想像だけとは思えません。Chateaudun Passionのように、テキストはなくてもステージ建造の記録がかなり残っているケースもあるようですね。一方でイングランドでは、英語のThe Castle of Perseverance(『忍耐の城』)のような円形ステージの見取り図が中世から残されています。
この後者の劇については、かってRichard Southern ("The Medieval Theatre in the Round")とGlynne Wickhamの間で、観客の存在について議論が戦わされたことがあったと思います。Southernは確か円形の上演スペースの中に観客が混在する、と考え、Wickhamは円形のacting areaの外側に居たと想定しました("The Medieval Theatre", 3rd ed. p. 117)。Wickhamは現代における実際の上演も参考にして、acting areaを囲む土手のところに観客がいた(あるいは観客席がしつらえられた)と想定しています。その後の研究者(ex. William Tydeman)もWickhamと同様の意見があるようです。しかし、最近の権威者、Pamela KingはSouthernのように、中央部の城のまわりは別にしても、観客がそれ以外のacting areaに居たという見方のようです("The Cambridge Companion to Medieval English Theatre" 2nd ed [2008], pp. 241-2)。
フーケの絵画にしろ、The Castle of Perseveranceの円形ステージにしろ、現在残る資料では、観客の位置については、なかなか決定的な結論は出ないのかも知れません。ちなみに、エリザベス朝やスチュアート朝の商業劇場(グローブ座の様な)でも、ステージの上に客の一部を上がらせていました。客とacting spaceを分けるというのはそもそもイギリス演劇の伝統にはなくて、プロセニアム・ステージが出来て徐々に定着したのではないかと思います。
円形ステージを中世の教会の延長にみるとすると、典礼劇と円形ステージの関係から、観客が内側に居たというのもうなずけます。しかし、円形舞台をトーナメント(Pas d'arms)の伝統の延長に捉えることも出来ます。The Castle of Perseveranceはそういう面が強いです。その伝統では、勿論観客はacting areaの外にいるのが自然で、これがWickhamの考えにも影響しているようです(p. 116)。
私は、西欧の中世劇の一般論として、ステージ形式には並列も円形もあったし、観客はどちらの形でも特定の席とかエリアに縛り付けられず、それぞれのシーンで見やすい位置に移動したと思います。勿論、mansionの中など、観客がおのずと入れないところはあったでしょうけれど。
KM ― 2012-02-12 19:08
Yoshiさん、いつも貴重なコメントどうもありがとうございます。舞台形態については実際には上演場所に応じてさまざまなバリエーションがあったのだと思います。中世劇の舞台については、聖史劇についての話が中心なのでこれまで関心を持ったことがありませんでした。そもそも十三世紀演劇にはディダスカリもないし、上演記録もないので、上演状況や舞台空間について考察しても仕方ないような気がしていたのです。また私が関心を持っているのは世俗劇のほうだったということもあります。
正直、今回、フェーヴルの演劇史の該当部分を最初に読んだときには、何がどうなっているのかよく理解できませんでした。それでずっと積読になっていたレ=フロの著作をあわてて読んだり、ラナルズの論文を読んだりしました。
この前メールで書いたラナルズの舞台用語についての論文がこのあたりのことがよくまとまっています。フェーヴルの記述もラナルズの指摘を参照した上のものであるように感じました。ラナルズの論文はPDF版が手元にありますので、もしよろしければ、お送りします。
caminさま、
いつも好き勝手なコメントをお書きして、恐縮です。確かに国や地方、時期、そしてそれぞれの劇によるバリエーションが大きいですね。でも、そうした違いを超えて、中世劇独特の演劇空間の共有がある点が素晴らしいと思います。私には、とてもエキサイティングなトピックです!上記のWickhamやTydemanも、色々な国における上演スペースに触れています。
論文のPDFのこと、ありがとうございます。ただ、私も既にコピーを手に入れました。今のところ読めそうもありませんが。
TwitterでRunnallsの名前についてお書きしましたが自信はありません。ラノールズかも知れないと思ったりもします。機会があったら講師室などで英語の先生とか、ネイティブ・スピーカーの先生に質問されてください。
私のブログで、ついでに、Runnallsが論文を書いているChateaudunの受難劇のことにも触れました。これも凄い円形ステージだったんですね。(ところで、"Chateaudun"って、どのように読むのでしょうか)。
KM ― 2012-02-13 00:24
Yoshiさま、
Runnallsはとりあえず「ラナルズ」でいきます。ネイティブに聞くとますます混乱しそうな気がしてきました。固有名のカナ表記については、原音の意識しつつも、慣用的表記も取り入れるという感覚でいくのがbetterであるように思いますが、やっかいですね。
そちらのブログにもあとで寄らせて貰います。
Chateaudunは、「シャトダン」あるいは「シャトーダン」とすると思います。後者の方が多いかも。
フランス語の固有名かな表記にもいろいろ問題がありますが、綴り字「au」が「オー」と長母音で転記され、定着している場合が多いです、実際には長母音にはなっていないにもかかわらず。有名人の例では、Faureは「フォーレ」が慣用ですが、「フォレ」が近い。Baudelaireは「ボードレール」よりむしろ「ボドレール」としたほうが、母音の長短という点では原音には近いです。「ボージョレ」は最近、「ボジョレー」表記が増えてきたように思います。ただしフランス語では母音の長短で単語の意味が変わることはないので、仏人はどっちでもさして気にならないでしょうが。
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