【03-08十三世紀都市の演劇】十三世紀演劇とフォークロア(1):『ロバンとマリオンの劇』の場合
2012-04-05


ヴォルティエが提示する史料には、ペンテコステ(聖霊降臨祭)のおりに毎年アンジェで『ロバンのマリオンの劇』というタイトルの演劇作品が上演されたことが記されている**。この『ロバンとマリオンの劇』はアダン・ド・ラ・アルの作品であるかどうかはわからないのだが、演劇作品の上演がペンテコステの祝祭と関わりがあったことを伝えている点で注目に値する。移動祝祭日であるペンテコステは五月初旬から六月初旬のあいだに祝われるが、このペンテコステの祝祭は春の到来を祝う五月祭の習俗と混同されることが珍しくなかった。五月祭の習俗は時代、地域によって異なるが、グリン・ウイッカムによれば、十七世紀はじめごろまでのイギリスの五月祭では王と王妃が祭の参加者のなかから選出され、彼らはロビンフッドとマリオンと呼ばれたとのことである***。中世フランスの牧歌では羊飼いのカップルだったロバンとマリオンが、近代初期のイングランドの五月祭の風習ではアウトローの英雄ロビンフッドとその恋人マリアンに姿を変えているというのは興味深い。五月祭の王と王妃の名前に加え、アダン・ド・ラ・アルの『ロバンとマリオンの劇』で羊飼いたちが興じた遊戯のひとつが「王と王妃の遊び」であることも、五月祭の風習とこの田園牧歌劇の成立とのつながりを示唆している。ロバンとマリオンを主人公とするフランスの田園牧歌の伝統は、近代初期のイングランドの五月祭のなかで、ロビンフッド伝説、森に住むとされた野生の男(緑の男)のフォークロアと混じり合い、新たな形で継承されていたのである。

* Marie-Madeleine Fontaine, ≪ Danser dans le Jeu de Robin et Marion ≫, in Le Corps et ses enigmes au Moyen Age, dir. par B. RIBEMONT, actes du colloque Orleans 15-16 mai 1992, Caen, Paradigme, 1993, p.45-54.
** Roger Vaultier, Le Folklore pendant la guerre de Cent Ans d'apres les lettes de remission du Tresor des Chartes, Paris, Guenegaud, 1965, p. 72.
***グリン・ウィッカム『中世演劇の社会史』山本浩訳、筑摩書房、1990年、p.193-197.

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[フランス中世演劇史]

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